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「後方支援」で戦争に巻き込まれることはないか?ーーイラク派遣の教訓から

日米密約や自衛隊に関する著書もあるジャーナリスト布施祐仁さんのポストです。

「後方支援」で戦争に巻き込まれることはないか?

――イラク派遣の教訓から

 安倍政権が今国会で成立させようとしている安保法制の中に、「国際平和支援法案」という新法があります。これは、自衛隊がいつでも戦争中の他国軍に「後方支援」できるようにするための恒久法です。

 「後方支援」は、英語にすると「Logistic Support」、つまり「兵站支援」のことです。当たり前ですが、前線に兵士や武器・弾薬、燃料、食糧などを運ぶ兵站活動がなければ戦争はできません。兵站が戦闘と一体不可分というのは軍事の常識です。

それを安倍政権は「後方支援は武力行使そのものではないので、現に戦闘が行われている現場でなければ現在の憲法の下でもできる」と言って、この法案を通そうとしているのです。

 しかし、いくら日本が「後方支援は武力行使ではない」と主張してみても、実際に戦地に行けばそんな理屈は通用しません。攻撃に対して脆弱な兵站を叩くというのも、また軍事の定石だからです。

 これに対して、安倍首相は国会で「万が一襲撃に遭った場合は、応戦をし続けて後方支援任務を続けるのではなく、直ちに退避する」と言っています。だから、自衛隊が戦争に巻き込まれていくことはないんだという理屈です。

 しかし、実際の戦地ではそんな「机上の空論」が通用しないことは、すでにイラク派遣の実態が示しています。

 イラク派遣では、航空自衛隊のC130輸送機がバグダッド空港に米軍の兵士や物資などを輸送していました。まさに「兵站支援」です。自衛隊の活動地域は、米軍が行う軍事作戦(武力行使)と一体化しないように、「非戦闘地域」に限定されていました。

 しかし、実際には、まさに米軍と戦闘する武装勢力がバグダッド空港に攻撃をかけている最中に、航空自衛隊のC130輸送機が着陸したこともありました。現場から判断を仰がれた当時の司令官は、「機長に任せろ。責任は俺がとる」と言ってゴーサインを出したそうです。明らかにバグダッド空港が「戦闘地域」になっているわけですから、法律を遵守するならば、着陸せずにただちに帰投すべきでした。しかし、自衛隊はそう判断しませんでした。

 繰り返しになりますが、兵站は戦闘と一体不可分です。他国軍に兵站支援をするということは、国際的に言えば他国軍と「連合作戦」を行うことを意味します。「連合作戦」を行うと決めて派遣した以上、現場では自衛隊だけの判断で行動することは許されません。

 イラク派遣で一人の「戦死者」も出さなかったことは、「奇跡」でした。今回国会に提出された「国際平和支援法案」では、イラク派遣の時の「非戦闘地域」という縛りもなくし、弾薬の提供も解禁するなど、さらにもう一歩「戦争」に踏み込もうとしています。そうなれば、派遣された自衛隊員が「殺し、殺される」戦闘に巻き込まれるリスクは間違いなく増大するでしょう。

 そして、最も大きな問題は、隊員たちがそのようなリスクを負って兵站支援する戦争が、イラク戦争のような国連安保理決議も経ない国際法違反の戦争となる可能性があることです。

 当時、自民党の幹事長としてイラク戦争支持と自衛隊派遣の政策決定に深く関わった山崎拓氏は、今年4月、朝日新聞のインタビューに答えて次のように語っています。

 「大量破壊兵器があると信じたのは間違いでした。米国追随主義の典型です。米国の圧力というよりも、日本の政治家にたたき込まれた『日米同盟堅持』という外交理念によるものが大きい。同盟堅持のため、米国の要求にはできるだけ応えようという『対米コンプレックス』の表れだったかもしれません」(4月3日付)

 山崎氏は「イラク戦争とは何だったのか。それを考えると、自衛隊の派遣は行き過ぎだった」とも話し、現在は安保関連法案に反対の声を上げています。

 これに反して安倍政権は、いまだにイラク戦争を「大量破壊兵器が存在しないことを積極的に証明しなかったイラクが悪い」と正当化し続けています。そのような政権が「国際法に違反するような行為に対して後方支援を行うことは考えられない」(岸田外務大臣)と言っても、どうして信じられるでしょうか。

 このままイラク戦争と自衛隊イラク派遣の総括をしないまま安保法制が成立すれば、日本は手痛いしっぺ返しを食うでしょう。そのツケを払わされるのは、安倍首相ではなく、自衛隊員であり、私たち国民です。

布施祐仁(ふせ・ゆうじん)

ジャーナリスト

布施祐仁のツイッター


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